日光の社寺

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徳川家康の霊廟として創建された東照宮（とうしょうぐう）、現在の主要な社殿は三代将軍・徳川家光によって寛永13年（1636年）に造営されたもの。境内には絢爛たる桃山文化の伝統を継いだ極彩色の彫刻や金箔で飾られた陽明門、唐門、拝殿、本殿、奥社が立ち並んでいる。日光の社寺では、建造物群と周辺の自然景観が一体となった文化的景観も世界遺産に登録されている。

江戸文化の粋を集めて作られた豪華精巧をきわめた陽明門（ようめいもん）、終日眺めていても飽きないことから日暮門（ひぐらしもん）とも呼ばれている。東照宮建築物群の中でも最も彫刻などの建築装飾に優れた建物で、500以上の動植物の彫刻や地紋と呼ばれている文様彫刻で覆われている。国宝に指定されている。

本殿を守る唐門、四辺は唐破風（からはふ）造りの屋根になっている。この奥に拝殿、本殿がある。左右に透かし彫りで彫刻された「透塀」が延び本殿を取り囲んでいる。唐門に施されている彫刻の数は 611で陽明門の 508を上回る。国宝に指定されている。

唐門の左右から拝殿、石の間、本殿を取り囲むように延びる透塀（すきへい）、欄間には花や鳥などを取り合わせた透かし彫り彫刻が施されている。瑞垣（みずがき）とも呼ばれている。全長160メートル。写真の中央部は唐門の柱、その左側に透塀が延びている。透塀も国宝に指定されている。

大谷川（だいやがわ）に架かる神橋（しんきょう）、木造橋で全長28ｍ、幅7.4ｍ、水面からの高さは10.6ｍ。室町時代にその存在が確認されていて、現在の橋形となったのは寛永13年（1636年）。両岸の岩盤に橋げたを埋め込む「はね橋」形式の橋としては我国唯一の古橋、この橋を渡ると二社一寺の神域になる。国の重要文化財に指定されている。

二荒山（男体山）をはじめ諸山の神霊を祀っている二荒山神社、開基は勝道上人。日光連山そのものを境内地とする山岳信仰の神社で、神橋、華厳の滝なども境内地にある。写真は元和 ５年（1619年）、二代将軍・徳川秀忠により江戸初期の技術の粋を集めて造営された本殿、安土桃山時代の八棟造り。国の重要文化財に指定されている。

輪王寺の本堂である三仏堂（さんぶつどう）、嘉祥元年（ 848年）、滝尾神社近くに創建された。写真の建物は、神仏分離令にともない現在地に移転されたもの。本堂内には阿弥陀如来、千手観世音菩薩、馬頭観世音菩薩の３体が本地仏として安置されている。国の重要文化財に指定されている。

三代将軍・徳川家光の霊廟として承応 2年（1633年）、輪王寺境内に造営された大猷院（たいゆういん）。山の地形を利用して大切な建物が高いところに建てられている。徳川家光の遺言で東照宮に勝らないよう規模を控えめにし、金と黒を基調にした造りになっている。大猷院の本殿・相の間・拝殿の 1棟は国宝に指定されている。

概　要

日光の社寺（にっこうのしゃじ）、

1. 建造物の多くは、17世紀の日本を代表する天才的芸術家による作品で、高い芸術的価値を有していること
2. 古来の神道思想に基づく信仰形態は、自然と一体となった宗教空間を創り上げ、今なお文化として生き続けていること

などが評価され、1999年、文化遺産に登録された。

構成資産は、次の4資産（二社一寺と周辺の景観遺跡）。

1. 二荒山神社（ふたらさんじんじゃ）
   別宮本宮神社、別宮滝尾神社を含む
2. 東照宮（とうしょうぐう）
3. 輪王寺（りんのうじ）
   大猷院霊廟を含む
4. 二社一寺周辺の景観遺跡（文化的景観）

登録地域の面積は、構成資産 50.8ヘクタール、それを保護する緩衝地帯 373.2ヘクタール。

神道と仏教が融合した独自の信仰を育くんできた日光

二荒山（男体山）をはじめ諸山の神霊を祀ってきた二荒山神社、1200年以上の歴史を有する輪王寺に代表される日光の社寺は、古来の神道と神を仏として崇める仏教が融合した独自の信仰を育くんできた。江戸時代には、徳川家康の霊廟である東照宮の造営により、現在の建造物群が整えられた。明治4年（1868年）の神仏分離令以降は、東照宮以外の日光山内の神道建造物を総称して二荒山神社、日光山内の仏教建造物を総称して輪王寺と呼ぶようになった。

二荒山神社
日光における山岳信仰の中心として古くから崇拝されてきた神社。中世には多くの社殿が造営され、江戸時代になると徳川幕府によって新たに本殿や社殿が造営された。
本殿や神橋など23棟が重要文化財に指定されている。

東照宮
元和 3年（1617年）、徳川家康の霊廟として創建され、徳川家康を神格化した東照大権現（とうしょうだいごんげん）を主祭神として祀っている。 現在の主要な社殿は、寛永13年（1636年）、 3代将軍・徳川家光により造営されたもの。東照宮の創建により、日本の代表的な神社建築様式である「権現造」が完成した。
本殿、石の間・拝殿、正面唐門、背面唐門、陽明門、東西透塀2棟、東西回廊2棟の 8棟が国宝に、34棟が重要文化財に指定されている。

輪王寺
8世紀末、日光を開山した勝道上人（しょうどうしょうにん）の創建した四本竜寺（しほんりゅうじ）を起源とし、日光山の中心寺院として発展してきた。本堂は嘉祥元年（ 848年）、滝尾神社（たきのおじんじゃ）近くに造営された。現在の建物は徳川家光の寄進により正保 2年（1645年）竣工、神仏分離令にともない明治12年（1879年）に現在地に移転された。承応 2年（1653年）には徳川家光の霊廟が境内地に造営された。本堂には日光三山の本地仏として三体の本尊（阿弥陀如来、千手観世音菩薩、馬頭観世音菩薩）が祀られている。
大猷院の本殿・相の間・拝殿の 1棟が国宝に、37棟が重要文化財に指定されている。

二社一寺の略年表

奈良時代
766年（天平神護 2年）

日光を開山した勝道上人（しょうどうしょうにん）、男体山に神をまつり四本龍寺を創建。

782年（大永 7年）

勝道上人、 782年に男体山の登頂に成功、その 2年後に寺院を建立し日光山を開いた。

848年（嘉祥元年）

輪王寺の本堂である三仏堂（さんぶつどう）、仁明天皇の勅願により比叡山座主慈覚大師円仁によって創建された。

江戸時代
1617年（元和 3年）

東照宮が徳川家康の霊廟として創建された。

1619年（元和５年）

二荒山神社・本殿が二代将軍・徳川秀忠により江戸初期の技術の粋を集めて造営された。

1625年（寛永 2年）

松平正綱の命で日光道中に杉並木の植樹が開始された。 　

1636年（寛永13年）

東照宮の主要な社殿が三代将軍・徳川家光により造営された。

1653年（承応 2年）

大猷院（三代将軍・徳川家光の霊廟）が輪王寺境内に造営された。

明治時代
1871年（明治 4年）

明治政府の神仏分離令により、一体として経営されてきた日光山は二荒山神社、東照宮、輪王寺の二社一寺に分割された。

1879年（明治12年）

滝尾神社近くに造営された輪王寺・本堂（三仏堂）が現在地に移転。

昭和時代

1934年（昭和 9年）

国立公園法の施行により日光が国立公園に指定された。

1950年（昭和25年）

文化財保護法の施行により、日光山内の主要な建物が国宝や国の重要文化財に指定された。

1952年（昭和27年）

日光杉並木が国の特別史跡に指定された。

平成時代

1998年（平成10年）

日光山内が国の史跡に指定された。

1999年（平成11年）

第23回世界遺産委員会で世界遺産への登録が決定。

日光東照宮には随所に平和を願う思いが込められている

17世紀の天才的芸術家の作品群である東照宮と大猷院は、日本近世の宗教建築を代表する権現造り形式の完成形といわれ、その後の霊廟建築や神社建築に大きな影響を与えた。権力の絶大さを象徴する豪華絢爛たるものの、随所に平和を願う思いが込められている。
神厩舎に飾られている「三猿（さんざる）」に表現されている処世術、東回廊に飾られている「眠り猫（ねむりねこ）」に象徴されているを平和を願う思い、含蓄のある徳川家康の遺訓など、現代に通じるものが感じられる場所でもある。
徳川家康の遺訓
人の一生は重荷を負て　遠き道をゆくが如し　いそぐべからず
不自由を常とおもへば不足なし　こころに望みおこらば困窮したる時を思ひ出すべし　堪忍は無事長久の基　いかりは敵とおもへ
勝事ばかり知りてまくる事を知らざれば害其身にいたる　おのれを責て人をせむるな　及ばざるは過たるよりまされり