平泉‐仏国土を表す考古学的遺跡群

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毛越寺

嘉祥 3年（850年）、慈覚大師円仁によって開山されたと伝わる毛越寺（もうつうじ）。二代基衡が造営に着手、三代秀衡の時代にすべての堂塔が完成した。当時の建物はすべて焼失したが、庭園と伽藍はほぼ完全な状態で保存されていて境内は国の特別史跡に、庭園は国の特別名勝に指定されている。写真の建物は、平成元年（1989年）に建立された平安様式の本堂。

毛越寺・常行堂

享保17年（1732年）に再建された常行堂（じょうぎょうどう）、本尊は宝冠阿弥陀如来、奥殿に摩多羅神（またらじん）をまつる。毎年正月20日、古式常行三昧の修法が行われ、国の重要無形民俗文化財である「延年の舞（えんねんのまい）」が奉納される。

毛越寺・庭園

大泉が池を中心とする毛越寺庭園（もうつうじていえん）、現生に自然美の浄土を表現した芸術作品といえる。ほぼ完全な状態で保存されていて、境内は国の特別史跡に、庭園は国の特別名勝に指定されている。写真はその大泉が池、池のほぼ中央部に中島があり、周辺部には州浜（すはま）、荒磯（あらいそ）、築山（つきやま）、遣水（やりみず）などが配されている。

毛越寺・曲水の宴

遣水に盃を浮かべ、その流れに合わせて和歌を詠む平安時代の曲水の宴（ごくすいのえん）、毎年 5月第四日曜日に開催されている。
遣水（やりみず）＝山水を池に取り込むために造られた曲がりくねった水路、毛越寺の遣水は全長80mの全国最大規模、平安時代の遺構としては日本で唯一のもの。

観自在王院跡

二代基衡（もとひら）夫人が建立したと伝えられている観自在王院（かんじざいおういん）の跡、写真の舞鶴が池（まいずるがいけ）の奥に大小二つの阿弥陀堂があった。毛越寺に隣接し南門跡、西側土塁、西門跡などが整備され、舞鶴が池が復元されている。国の名勝に指定されている。

無量光院跡

三代秀衡（ひでひら）によって造営された無量光院（むりょうこういん）の跡、宇治平等院鳳凰堂を模して建立された阿弥陀堂と周囲を取り巻く池を中心に伽藍が構成されている。建物の中心線は西の金鶏山と結ばれ、その稜線上に沈む夕日に極楽浄土をイメージした浄土庭園の最高傑作といわれている。国の特別史跡に指定されている。

中尊寺・経蔵

中尊寺所蔵の経典を納めるための経蔵（きょうぞう）。もともとは 2階建、建武 4年（1337年）の火災で焼失、当時の部材を利用して再建された。国宝である紺紙金銀字交書一切経（こんしきんぎんじこうしょいっさいきょう）、紺紙金字一切経が納められていた。国の重要文化財に指定されている。

中尊寺・金色堂

天治元年（1124年）建立で創建当時のまま残る金色堂（こんじきどう）、本尊はあの世での極楽往生を願う阿弥陀如来、国内に現存する阿弥陀堂建築では最古。写真の建物はコンクリート造りの覆堂（おおいどう）で、屋内で輝いているのがガラスケースに収められている金色堂。金色堂は漆に金箔が押され、内部は金銀珠玉がちりばめられている。国宝建造物第一号に指定されている。

概　要

平泉‐仏国土（浄土）を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群（ひらいずみ - ぶっこくど（じょうど）をあらわすけんちく・ていえんおよびこうこがくてきいせきぐん）、

1. 平泉の寺院や浄土庭園は、現世における仏国土（浄土）の空間的な表現を目的として創造された独特な事例であること
2. 平泉の浄土思想は、今も平泉で行われている宗教儀礼や民族芸能などに確実に受け継がれていること

などが評価され、2011年、文化遺産に登録された。

構成資産は次の５資産。

1. 中尊寺（ちゅうそんじ）
2. 毛越寺（もうつうじ）
3. 観自在王院跡（かんじざいおういんあと）
4. 無量光院跡（むりょうこういんあと）
5. 金鶏山（きんけいざん）

登録地域の面積は、構成資産 176.2ヘクタール、それを保護する緩衝地帯 6,008ヘクタール。

なお、2012年8月23日、上記５資産に加え他の文化遺産についても拡張登録をめざすことが決定、暫定リストに記載された。
拡張登録をめざす文化遺産は、

1. 柳之御所遺跡（やなぎのごしょいせき）
2. 達谷巌（たっこくのいわや）
3. 白鳥舘遺跡（しらとりたていせき）
4. 長者ケ原廃寺跡（ちょうじゃがはらはいじあと）
5. 骨寺村荘園遺跡（ほねでらむらしょうえんいせき）

平安時代末期から100年にわたり建造された仏教寺院や浄土庭園

11世紀後半、東北地方（陸奥の国）の支配をめぐって戦われた前九年合戦、後三年合戦を生き延びた奥州藤原氏初代清衡（きよひら）は、豊田館（現奥州市江刺区）から平泉に館を移し、平和で平等な理想郷「この世の浄土・平泉」をめざした。平泉には、初代清衡の精神を引き継いだ二代基衡（もとひら）、三代秀衡（ひでひら）らによる平安時代末期から100年にわたり建造された仏教寺院や浄土庭園が残されている。
そのうち中尊寺金色堂が国宝に、中尊寺経蔵、中尊寺旧覆堂が国の重要文化財に指定されている。また中尊寺境内、毛越寺境内、無量光院跡は国の特別史跡に、金鶏山は国の史跡に、毛越寺庭園は国の特別名勝に、観自在王院跡は国の名勝に指定されている。

平泉に戦のない理想郷を築く決意を表明した清衡

藤原清衡は自らの悲惨な戦の体験から、天治3年（1126年）中尊寺の落慶供養に際し「戦いに倒れた人々の魂が敵味方なく浄土へ往生することを願い、仏の教えにより現世に仏国土（浄土）を実現するため大伽藍を建立した」旨の中尊寺建立供養願文（ちゅうそんじこんりゅうくようがんもん）を読み上げた。朝廷からの介入をいさめ、平泉に戦のない理想郷を築く決意を表明したものといえる。
極楽浄土信仰
6世紀から12世紀にかけて発展を遂げた日本独特の仏教（阿弥陀如来の極楽浄土信仰）では、死後に阿弥陀仏の住む西方極楽浄土への往生とともに、現世に究極の仏の理想世界である仏国土（仏の世界である清浄化された浄土）を実現できるとされた。

人の心の中に平和のとりでを築かなければならない

ユネスコ憲章（前文）には第二次世界大戦の苦い教訓から、戦争を繰り返さないため「戦争は人の心の中に生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と記されている。藤原清衡の理想は、ユネスコの平和を希求する精神と合致し、平泉の文化遺産が世界遺産に登録されることによって現代によみがえった。平泉の文化遺産が「平和な世界」の実現に寄与することを願わずにはいられない。

平泉の略年表

平安時代
1051年（永承 6年）

前九年合戦（ぜんくねんかっせん）起こる。岩手県の中央から県南に勢力を広げていた豪族・阿部氏と朝廷から陸奥守（むつのかみ）として派遣された武士・源頼義との合戦。苦戦した源頼義は、秋田で勢力を広げていた豪族・清原氏を味方につけ阿部氏を滅ぼした。12年間にわたり戦われた。
阿部頼時の娘婿であった藤原経清は殺害され、頼時の娘は 7歳の息子（のちの藤原清衡）とともに清原家に引き取られた。阿部頼時の妻は清原家から嫁にきていたので清衡にとって清原家は祖母の家だった。

1083年（永保 3年）

後三年合戦（ごさんねんのかっせん）起こる。阿部氏を滅ぼした清原家で後継ぎ問題をめぐり兄弟同士の争いが起き、朝廷から陸奥守として派遣された源義家が加わり大きな合戦になった。5年間にわたり戦われた。
清原家は滅亡、源義家を味方につけ生き延びた清衡は江刺から平泉に舘を移した。清衡はこの戦いで妻子を失った。

1089年（寛治 3年）

初代清衡、陸奥押領史（むつおうりょうし）に任命される。

1105年（長治 2年）

初代清衡、中尊寺の再建に着手、天治元年（1124年）金色堂建立。基本的な伽藍が完成したのは21年後の大治元年（1126年）。中尊寺の落慶供養に際し「戦いに倒れた人々の魂が敵味方なく浄土へ往生することを願い、仏の教えにより現世に仏国土（浄土）を実現するため大伽藍を建立した」との供養願文（くようがんもん）を読み上げた。

1150年～（久安 6年～）

二代基衡、久寿 3年（1156年）にかけて、毛越寺に大規模な伽藍を建立。基衡の妻、観自在王院を建立。

1170年（嘉応 2年）

三代秀衡、鎮守府将軍（ちんじゅふしょうぐん）に任命される。

1181年（養和元年）

三代秀衡、陸奥守に任命される。

1189年（文治 5年）

四代泰衡は、源頼朝に追われた源義経をかくまっていたが、源頼朝の圧力に抗しきれず義経を自害させた。泰衡は秋田まで落ち延びたが家来によって殺害され、奥州藤原氏は滅亡した。

鎌倉時代
1288年（正応元年）

鎌倉幕府により、金色堂を護る覆堂が建造された。現存する覆堂は室町時代のもので、現在のコンクリート造りの新覆堂の建造に伴って北東90mのところに移された。

江戸時代
1689年（元禄 2年）

仙台藩により、遺跡保護のため寺院や仏堂の礎石や庭石の持ち出しが禁止され、遺跡の周囲に杉並木が植栽された。

1732年（天保17年）

毛越寺常行堂、仙台藩によって再建された。

昭和時代
1951年（昭和26年）

昭和25年（1950年）に文化財保護法が制定され、中尊寺金色堂が国宝建造物第一号に指定された。

1962年（昭和37年）

金色堂の解体修理が行われ、6年後の昭和43年（1968年）に創建当時の輝きを取り戻した。この間、旧覆堂は解体移築され、新たに鉄筋コンクリートの新覆堂が建設された。

平成時代
2011年（平成23年）

第35回世界遺産委員会で世界遺産への登録が決定。