東京都上野公園にある国立西洋美術館・本館は、
フランス政府が日本を含む7か国と共同で推薦していた「ル・コルビュジエの建築作品(7か国17作品)」の1作品として、「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」という名称で他の16作品とともに一括して、 2016年、文化遺産に登録された。
ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献- は
国立西洋美術館は
国境をまたいだ世界遺産(トランス・バウンダリー・サイト)としては日本では初登録、大陸をまたいだ世界遺産(トランス・コンチネンタル・サイト)としては世界で初登録となった。
構成資産は7か国に現存する17作品
フランス(10)登録地域の面積は、構成資産 98.4836ヘクタール、それを保護する緩衝地帯 1,409.384ヘクタール。
国立西洋美術館は、ル・コルビュジエが設計した国内唯一の建造物(1959年竣工)。ピロティー、スロープ、自然光を利用した照明などル・コルビュジエの建築的な特徴がよく表現されている作品で、日本の戦後建築に大きな影響を与えた。
また国立西洋美術館は、ル・コルビュジエが長年追求してきた「無限に成長する美術館(美術作品が増えても必要に応じて外側へ増築して展示スペースを確保できる美術館)」構想を実現した美術館の一つでもある。ピロティーとなっている1階の正面入口から建物の中心となるメインホール(19世紀ホール)に入ると、スロープで2階の展示スペースへのぼり、回遊することができる。
ピロティ
フランス語で建物を支える杭のこと、柱だけで構成されている壁のない吹き抜け空間をもった建築様式またはその空間をさす。日本では丹下健三による広島平和記念資料館の設計で初めて用いられた。
ル・コルビュジエは、鉄筋コンクリートによるフレーム構造でスラブ(床板)、柱、階段が建築の主要素だとするドミノシステム、近代建築を成り立たせるための近代建築の5原則(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な正面)、人体の寸法と黄金比率から考え出した基準寸法であるモデュールなど提案し、20世紀以降の建築・デザインに多大な影響を与え、数多くの作品を残した。ル・コルビュジエ作品は、世界で約70作品が現存している。
ユネスコは、グローバルストラテジー(世界遺産リストの不均衡是正の取り組み)で、20世紀建築の登録を重視しており、その建築作品としては、アントニオ・ガウディの建築群(スペイン)、ブラジリア(ブラジル)、ヴァイマールとデッサウのバウハウスとその関連遺産群(ドイツ)、建築家ヴィクトール・オルタによる主な邸宅群(ベルギー)、リートフェルト設計のシュレーテル邸(オランダ)、ル・アーヴル、オーギュスト・ペレによる再建都市(フランス)、シドニーオペラハウス(オーストラリア)、ベルリンの近代集合住宅群(ドイツ)、アルフェルト町のブナ工場(ドイツ)などが登録されている。
近代建築の三大巨匠
ル・コルビュジエ(スイス生まれフランス国籍)は、フランク・ロイド・ライト(米国)、ミース・ファン・デル・ローエ(ドイツ出身)とともに「近代建築の三大巨匠」と呼ばれている。
国立西洋美術館は、株式会社川崎造船所の社長であった故・松方幸次郎氏がヨーロッパ各地で集めた絵画や彫刻(松方コレクション)を基に、1959年(昭和34年)に設立された美術館。
松方コレクションは戦後、サンフランシスコ平和条約によりフランス政府に敵国資産として差し押さえられていた。その後、日仏文化協定の調印(1953年)を経てフランス政府の好意によりその一部が日本に返還されることになった。返還に際しては、フランス政府からそれを受け入れるフランス美術館の創設が不可欠であるとの条件が提示され、ル・コルビュジエの設計で建設された。
国立西洋美術館の竣工は1959年、その後1979年(昭和54年)に新館が、1997年(平成9年)に前庭地下に企画展示館が増築された(いずれの建物もル・コルビュジエに師事していた前川國男設計事務所が設計)。20世紀建築の建築作品として世界遺産に登録されたのはわが国初。
2015年1月に提出された推薦書の概要(東京都台東区世界遺産推進室)
国立西洋美術館(東京都台東区世界遺産登録推進室)
JR上野駅(公園口)~徒歩